[付録:I] 歯面解析例(損傷歯車) I1. はじめに 歯車の歯面応力を解析するとき,近年,歯面修整が複雑化していることから歯面メッシュは,より細密化が必要とされる.そのためFEM-3D詳細モデルで解析しようとするとモデル作成,解析時間の問題から設計段階で使うには非現実的な解析法と言える.しかし,3D-FEMモデルと歯面膜要素(1)を融合した解析法を採用することにより歯面修整を持つ歯車であっても短時間で容易に応力解析をすることが可能となる. そこで,本編では歯形と歯幅方向をそれぞれ17断面の測定データで定義し,歯面粗さや潤滑油を考慮して歯面全域に渡っての摩擦係数や油膜厚さ,そしてフラッシュ温度などを計算した例を示す.更に,端部に着目した解析を行うことにより歯先端部やトロコイドかみ合い部のフラッシュ温度や端部を応力解析した例を示し,JGMAプロジェクトのA歯車の実験による損傷写真と比較検証した.その結果,実際の歯面損傷状況に対応した結果が得られたので報告する.
I.2 歯車解析ソフトウェアの概要
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歯面間の摩擦係数(3),式(I.1)~(I.3)に従って細分化した歯面位置で決定している. ƒs :境界潤滑部分の摩擦係数(鉱油,ƒL=0.01,ƒs=0.11) ƒ :摩擦係数 ƒL :流体潤滑負荷分担部分の摩擦係数 α :接触域での境界潤滑部分の割合 D :潤滑状態(1 <D) Rz1,Rz2:歯面粗さの最大高さ h0 :2 面間の弾性流体潤滑最小油膜厚さ(油温)
フラッシュ温度(4)のAGMA の基本式を式(I.5)~(I.7)に示すが,解析ソフトウェアで使用する際,摩擦係数は,式(I.7)を使うのではなく,式(I.1)で決定したƒ を細分化した歯面の位置に適用させ用いる.また,材料の熱伝達係数(λM)も使用する歯車材料で決定しなければならない.
K : flash temperature constant , μm ; mean coefficient of friction Xr = load sharing factor , wNr ; normal unit load, vr1 ;rolling velocity of the pinion, vr2 ; rolling velocity of the gear,BM ; thermal contact coefficient, bH ; semi-width of Hertzian contact band, XM ; thermal-elastic factor, λM ; heat conductivity, ρM ; density,cM ; specific heat per unit mass
I.3 検討歯車諸元と歯面データ AMTEC www.amtecinc.co.jp |
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研削した歯形は,図I.9のように歯車測定機(大阪精密機械:CLP-35)で歯形方向(かみ合い最小径から歯先まで),歯すじ方向それぞれ17本測定したデータである.ただし,ソフトウェア(6)ではかみ合い最小径からインボリュート開始径まで延長しているためデータ数は23となっている.この測定データをソフトウェアで読み込むと図4.2.8d-10のように表示することができる.ただし,ピニオンには歯面修整を与えず図I.11のようにピッチ誤差(17.9μm)のみ与えている.そして,図I.11 でトルク,弾性率,ポアソン比を設定し,図I.12で軸の食い違い誤差(φ1=0.02°)を与え歯面解析を行う.
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I.4 歯面応力の解析結果 図I.12に示すように最大接触角(θ=64.107°)を60 分割した角度で解析した結果, 最大歯面応力は図I.14のようにσHmax=2355MPa である. I.5 フラッシュ温度,摩擦係数,油膜厚さなど 図I.17 でフラッシュ温度計算などに必要な項目を設定し,(a)フラッシュ温度,(b)摩擦係数,(c)油膜厚さ,そして(d)発熱量を計算した結果を図I.18~図I.21 に示す. 図I.17(b)は,材料の熱伝導率を選択するための表であり,同じく(c)は,潤滑油の一覧表である.フラッシュ温度は,歯面粗さはもちろんのこと,材料の熱伝導率や潤滑油に大きく影響を受けるため正しく設定しなければならない.もし,検討している歯車(測定データ歯形)にピッチ誤差が無く,軸角誤差も無いとすれば,歯面応力は,図I.20のように最大ヘルツ応力はσHmax=2113MPaに低下し,最大フラッシュ温度もTƒmax=112℃となり32℃も低下する ことが解る. AMTEC www.amtecinc.co.jp |
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I.8 歯面応力(端部解析) 図I.14 に示した歯面応力分布は,図I.11で設定したかみ合い歯面の応力解析であるため,歯先や側端部の応力解析はしていない.そのため,ここでは端部接触部分の応力や発生するフラッシュ温度について解析する. 図I.25の端部解析の設定において歯先および側端部の接触半径を1mm と仮定して解析すると歯面応力(端部)の最大接触応力は,図I.26のようにσHmax=7423MPa となる.また,フラッシュ温度は,図I.27のようにピニオンかみ合い終わり側の歯先部でTƒmax=984℃の高温となる. |
I.9 解析と実験の比較 実験によるピニオン歯面の損傷写真(図I.28~I.30)と図I.31の解析結果を比較すると図I.29 ギヤの歯面応力分布は歯元付近で大きく,また,損傷写真のかみ合い終わり側の歯先部の歯面の一部が溶けたような損傷は,図I.27のフラッシュ温度での歯先端部のTƒmax=984℃の温度分布と良く一致しているといえる. 次に,図I.30のギヤの損傷拡大写真と図I.31 の解析結果を比較すると,かみ合い終わり側の歯元損傷位置とトロコイド損傷位置の実験結果と解析結果は良く一致している.また,図I.30の拡大写真では,歯元の一部で溶融している跡が見られるが,この損傷場所と図I.31の応力分布とは良く一致している. AMTEC www.amtecinc.co.jp |
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I.10 歯元応力解析 図I.12の解析角度(θ=-29.41°~34.70°)の範囲で歯元応力(最大主応力最大値σ1max)と歯形変位を図I.32 および図I.33に示す.また,最大値を示すθP=-7.68°での歯元応力と変位を図I.34 および図I.35 に示す. |
I.11 まとめ (1) 歯面応力分布と損傷写真そして寿命時間は良く一致したと言える.また,測 定データを使用することにより僅かな応力分布の違いも把握できた. (2) 強度計算式では,歯形形状や軸誤差には対応できないため,係数で処理し ているのが実情である.従って,歯車の真の実力を知るためには既に一般化 した道具である解析ソフトウェアが有効である.
本稿は,日本機械学会RC261に投稿した内容を編集したものであり,検討した歯車は,日本歯車工業会が実施したプロジェクトで実験したものである(掲載承認済). 参考文献 (1) Moriwaki, Finite element analysis of gear tooth stress with tooth flank film elements, VDI-2005 International Conference on Gears,(2005) p.39-53 (2) 久保・梅沢,誤差を持つ円筒歯車の荷重伝達特性に関する研究(機論43巻371号,(1977),pp.2771-2783 (3) 松本將,混合潤滑状態にある転がり-すべり接触面の摩擦係数推定式,トライボロジスト(日本トライボロジー学会誌),56 巻,10 号(2011-10),pp.632-638 (4) AGMA2001-C95, Fundamental Rating Factors Calculation Methods for Involute Spur and Helical Gear Teeth,(1995), pp.46 - 47 (5) 上田,RC261, 第6 回分科会,WG2 関連報告,歯車測定データを用いた応力解析(測定技術の進歩が解析技術をこう変える) (6) CT-FEM Opera, 歯車応力解析ソフトウェア,アムテック, (2014) (7) AGMA2001-C95, Fundamental Rating Factors Calculation Methods for Involute Spur and Helical Gear Teeth, TableA-3,Mineral Oil Mean Scuffing Temperature,(1995), p.50 (8) AGMA2001-C95, Fundamental Rating Factors Calculation Methods for Involute Spur and Helical Gear Teeth,(1995), p.37 (9) AGMA2001-C95, Fundamental Rating Factors Calculation Methods for Involute Spur and Helical Gear Teeth,(1995), p.53 (10) 久保,JGMA -ProjectX 報告,(2012) カタログ(vol.18),[45] CT-FEM Operaⅲ をご覧ください.
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