[付録:F] 遊星歯車設計のポイント
F2. 概要
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F3. 遊星歯車の基本運動式とギヤ比 本論に入る前に,遊星歯車の基本運動式とギヤ比について示す.遊星歯車の3つの回転要素の回転(サンギヤ回転Ns ,キャリア回転Nc,リングギヤ回転Nr)は,次式により関係づけられる. これが基本運動式である. ①シングルピニオン式遊星歯車
(1+λ)Nc=Nr+λNs (F.1)
②ダブルピニオン式遊星歯車
(1-λ)Nc=Nr-λNs (F.2)
ここに, λはサンギヤ歯数Zsとリングギヤ歯数Zr の比で
λ=Zs /Zr<1である.
式(F.1),(F.2)から3 つの回転要素のいずれかを固定,いずれかを入力,残りを出力とすることであるギヤ比が求まる.表F.1および表F.2は,シングルピニオン式遊星歯車とダブルピニオン式遊星歯車のギヤ比を運転条件に合わせて整理したものである. AMTEC www.amtecinc.co.jp |
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で決まる.その基本となるのが最小かみ合い角
θminで式(F.3)で表される. ここに,符号+;シングルピニオン,-;ダブルピニオンである. ピニオンの配置角δは,最小かみ合い角θminの整数倍となる. したがって, δ=n・θmin=/360kp (nは整数),すなわち, のとき,ピニオンは等配置となる. のとき,ピニオンは不等配置となる
F5. かみ合い位相の定義
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となり,ピニオン#1のかみ合いに対する各ピニオンのかみ合いの位相ΔPi (pitch)を求めることができる. 図F.4とは逆方向にかみ合いが進行する場合は,ピニオン#i の点bでのかみ合いは,ピニオン#1の点aでのかみ合いに対して⊿θ遅れていることになる.言い換えると, 進んでいることになる.よって,この場合のかみ合い位相ΔPiは, と表される. なお,上記は,サンギヤとピニオンのかみ合いに置ける位相であるが,ピニオンとリングギヤのかみ合いにける各ピニオン位置での位相もこれと同一となる.
F6. かみ合い位相と起振力特性
(Zs+ Zr)/kp= integer (整数)― ピニオン等配置
Zs/Kp=integer (整数)
例:Zs=33,Zr=75,Kp=4の遊星歯車(図F.5) ②各ピニオン位置でのかみ合いの位相が1/ kpピッチずつ順番にずれる場合
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(Sequentially phased);各ピニオン位置でのかみ合いの位相が等間隔に順番にずれていくので,回転方向および軸方向の起振力は相殺され,その変動成分は小さくなる.一方,半径方向および倒れ方向の起振力は釣り合わなくなるので,その変動成分は大きくなる.この状態は以下のギヤ構成条件で作り出される. (Zs+ Zr)/kp= integer (整数)― ピニオン等配置
Zs/Kp≠integer (整数)で,小数点以下が1/ k p or 1-1/ k p
例:Zs=33,Zr=75,Kp=4の遊星歯車(図F.6)
③対向するピニオン位置のかみ合いは同位相,隣り合うピニオン位置のかみ合いの位相が1/ 2ピッチずれる場合 (Counter phased);隣り合うピニオン位置のかみ合いの位相が1/ 2ピッチずれているので,回転方向および軸方向の起振力は隣り合うピニオン同士で相殺され,その変動成分は小さくなる. また,半径方向および倒れ方向の起振力は対向するピニオン同士で相殺され,その変動成分は小さくなる.すなわち,すべての方向の起振力を小さくすることができる.ただし,対向するピニオン2 個あるいは隣り合うピニオン2 個での相殺のため,歯面誤差や組付け誤差により起振力の相殺度合いが影響を受けやすい.この状態は以下のギヤ構成条件で作り出される.
(Zs+ Zr)/kp= integer (整数)― ピニオン等配置
Zs/Kp≠integerで,小数点以下が0.5
例:Zs=30,Zr=74,Kp=4の遊星歯車(図F.7)
④各ピニオン位置でのかみ合いの位相が2/kp or1-2/kpピッチずつ順番にずれる場合(Optimum phase);ピニオン個数が5or 6の場合この条件も存在する. |
および倒れ方向それぞれの起振力が相殺されることになる. これら状態は以下のギヤ構成条件で作り出される.
(Zs+ Zr)/kp= integer (整数)― ピニオン等配置
Zs/Kp≠integerで,小数点以下が2/Kp or 1-2/Kp
例:Zs=37,Zr=78,Kp=5の遊星歯車(図F.8)
例:Zs=38,Zr=82,Kp=6の遊星歯車(図F.9)
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⑤ピニオンが不等配置となる場合(Unequally spaced);ピニオンが不等配置になることで,各ピニオン位置におけるかみ合いに位相が生じる.各位相は,ギヤ構成条件によって異なるので,式(F.6),(F.7)によって求める.この位相差により,各方向の起振力はパターン①と②の中間的な特性を示すことになる.この状態は以下のギヤ構成条件で作り出される. (Zs+Zr)/kp≠integer (整数)― ピニオン不等配置
例:Zs=42,Zr=75,Kp=4の遊星歯車(図F.10)
最小かみ合い角θminは,
以上,説明したかみ合い位相のパターンとそれによる起振力のコントロール状況をまとめると表F.3のようになる. ギヤトレインの振動伝達特性に応じて,位相パターンを選択すれば,効果的なギヤノイズの低減が可能となる |
たとえば,回転方向の起振力に対して振動伝達特性が敏感なギヤトレインに対しては,②のSequentially phased 遊星歯車が有効であり,半径方向の起振力に対して敏感なギヤトレインに対しては①のIn phase 遊星歯車が有効となる. 歯数の決定段階では,ギヤトレインの伝達特性が不明な場合が多い.このような場合には,各方向の起振力を相殺できる③のCounter phase 遊星歯車を選択するのも一つの方法である. 5 ピニオンあるいは6 ピニオンが許されるのであれば,④の条件を満たす遊星歯車を選択したい.
(寄稿 森川 邦彦) AMTEC www.amtecinc.co.jp |
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